頭の中の小さな引き出し

思ったことを書きます。たぶんほとんど更新しません。

「刀ピークリスマス2021」はピーナッツくんに何をもたらしたか

今日からちょうど半年前の2021年12月25日、1本のMVがyoutubeに投稿されました。

その動画のタイトルは「刀ピークリスマスのテーマソング2021/ピーナッツくん」

このMVは驚異的な伸びを見せ、現在の再生回数はなんと487万回を超えています。

また、このMVの初出となった配信「刀ピークリスマス2021」のアーカイブ88万回以上再生されています。

なぜ、このような事態が起きたのでしょうか。

また、「刀ピークリスマス」はピーナッツくんの活動にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。

刀ピークリスマスとは?

そもそも「刀ピークリスマス」とはどのようなイベントなのか、改めておさらいしてみましょう。

にじさんじ所属の人気男性ライバー「剣持刀也」くんと、「ピーナッツくん」がコラボする配信で、2018年12月25日以来毎年クリスマスに行われています。

剣持くんと親密になりたいピーナッツくんが彼の家に押しかけ、ドタバタを繰り広げるというコメディ的な企画です。

基本的にネタを準備してくるのはピーナッツくんで、剣持くんはボケにツッコミつつピーナッツくんの求愛(!?)を受け流す、という立ち位置になっています。

「刀ピー」という謎カップリングもピーナッツくんの発案です。

甲賀流忍者ぽんぽこさんとピーナッツくん(所謂「ぽこピー」)を追っている人で、このコンテンツを知らない人は居ないと言っても過言ではないほど毎年恒例の企画となっています。

刀ピークリスマスソングとは?

刀ピークリスマスソングとは、「刀ピークリスマス」の企画内でピーナッツくんが剣持くんにプレゼントとして贈る楽曲です。

基本的に剣持くんへの愛が歌われており、なかなかに情熱的、そして変態的な内容となっています。

ピーナッツくんが得意とするラップの要素を取り入れつつ、ポップで中毒性のあるキャッチーなメロディが特徴です。

2019年の2曲目からは、配信とは別にMVとしても公開されるようになりました。

これまで公開された3本のMVの合計再生回数は790万回を超え、純粋な音楽としても人気を博しています。

「特別」だった刀ピークリスマス2021

既に書いたように、刀ピークリスマスは4年間毎年行われている企画です。

しかし、「刀ピークリスマス2021」はアーカイブの再生回数もMVの再生回数も他の年に比べて明らかに多くなっています。

この「人気爆発」とも言える現象はどういうことなのでしょうか。

この謎を読み解くヒントは、Vtuberシーンを取り巻く環境の変化にあります。

2018年にVtuberブームが始まって以降、長らくこの業界は男性視聴者が極めて多い傾向にありました。

面白さや可愛さを売りにした女性Vtuberや女性ライバーがたくさんデビューし、彼女たちを応援する男性ファンが増える中で、男性Vtuberは中々伸びにくい状況が続いていました。

当初「四天王」と呼ばれていた大手Vtuber5人が全て女性的な外見だったことからも、その傾向の一端が垣間見えるでしょう。 (注※キズナアイさんはAIなので性別無し、ねこますさんはバ美肉おじさん)

しかし、Vtuber業界の拡大とともに、視聴者の国籍や年齢層・性別は多様なものとなっていきました。

2020年頃からは女性ファンが徐々に増加し、男性Vtuberも活躍の場が広がり始めました。

特に「にじさんじ」は初期メンバーから男性ライバーを投入するなど、男女ともにバラエティ豊かなグループ構成を行っており、Vtuber業界における女性ファンの増加に貢献したのではないかと(個人的に)思っています。

にじさんじ×タワレコのコラボ告知。イケメンライバーがズラリ。

にじさんじユーザについてのデータをまとめたツイート。officialストアやファンクラブに登録しているユーザの比率では既に女性が男性を上回っている(1枚目)。

最近では「叶」さんや「葛葉」さんのような100万人以上の登録者を抱える男性ライバーも現れるようになりました。

▲この2人は「ChroNoiR」というユニットも組んでいます。

他グループもこの動きに追随したことで、現在では性別に関わりなく、まさに老若男女が自分の"推し"を見つけられるようになっています。

「刀ピー」の"刀"こと剣持刀也くんも例外ではありません。

デビュー時から面白いイケメンとして男女関わりなく人気でしたが、右肩上がりに人気が上昇し、特に2021年は前年の2倍近いペースでチャンネル登録者が増加するなど大活躍しました。

▲分析サイト「socialblade」より。剣持刀也くんの躍進がわかります。

https://socialblade.com/youtube/channel/UCv1fFr156jc65EMiLbaLImw

2021年10月21日には、人気男性ライバー4人によるユニット「ROF-MAO」のメンバーとしても活動するようになり、女性ファンはもちろんのこと、業界からの注目度もますます高まっています。

これらのタイムラインを考慮すると、剣持くんを含めた男性Vtuberへの注目度がグングン高まってきているタイミングで「刀ピークリスマス2021」が開催された、ということがわかります。

これは決して意図的なものではないでしょう。

クリスマスの日時は変わらないからです。

まさに偶然のイタズラ

様々な要素が重なったことによって、刀ピー、そしてピーナッツくんは世間に「発見」されることになります。

刀ピークリスマス2021の成功

刀ピークリスマス2021が告知された時、実は私は不安でした。

刀ピークリスマスは既に3回行われており、率直に言えばマンネリ感が否めなかったからです。

ピーナッツくんが剣持くんに言い寄る(笑)展開はこの企画のキモですが、回を重ねるうちに食傷気味になってきており「もう4回目だけど大丈夫?」という気持ちでした。

しかし、蓋を開けてみればこの配信は私の期待を大きく上回るものでした。

よく準備されたピーナッツくんの紙芝居漫談、サウナで築いた人脈を生かしたサプライズ展開、相変わらずクオリティの高いクリスマスソングなどなど…。

どれをとっても過去1番と言っていい仕上がりだったのです。

配信は同時接続者数が最大で3万人以上(前年の3倍近く)に達するなど非常に注目されており、ここでスベってしまえば刀ピーというカップリングが危機に陥るかもしれない状況でしたが、その大舞台でピーナッツくんはしっかり結果を残しました。

配信終了後のツイッターでは「初めての刀ピークリスマスリアタイでした!」と語る視聴者が沢山見られました。

▲刀ピークリスマス初リアタイを喜ぶ人、リアタイを逃して悔しがる人…悲喜こもごもの12月26日。

この人たちはきっと不思議に思っていたでしょう。

「今年からファンになった剣持刀也くん…彼がわざわざ毎年クリスマスに予定を開けてコラボする、この黄色いクリーチャーは一体何者なんだ?」

と。

あるいは既に"予習"して、刀ピークリスマスソングを楽しみにしていた人もいたかもしれません。

実は、前年の「刀ピークリスマスのテーマソング2020」のMVが、2021年のクリスマス以前に100万再生を突破していたのです。

これはまさに、''刀ピー爆発"の前兆とも言える現象でした。

刀ピークリスマス2021の配信内容と楽曲のクオリティは、高まった視聴者の期待に十分答えるものでした。

配信後にピーナッツくんのチャンネル登録者が一気に増えたことがそれを裏付けています。

またこれ以降、Twitterで「ピーナッツくん」や「刀ピー」といった単語が呟かれる頻度はそれ以前に比べて明らかに高くなっており、アクティブなファン層の獲得に成功したことがわかります。

MV「刀ピークリスマスのテーマソング2021」は投稿からわずか11日で100万再生を突破し、釣られて前年のクリスマスソングも200万再生に到達するなど、ピーナッツくんの周囲はにわかに活気づきました。

刀ピークリスマスの功罪

ピーナッツくんのその後の発言を鑑みると、刀ピークリスマスソングの爆発的な再生回数は本人にとって予想外だったようです。

しかし、彼はこのチャンスを逃しませんでした。

クリスマスの興奮冷めやらぬ2022年2月4日、XRライブ「ONAKAnoNAKA」が告知されます。

これは全編無料で開催されたクオリティの高いバーチャルライブであり、新たにピーナッツくんのファンになった人達に彼の"アーティスト"としての一面を強く印象づけるイベントでした。

youtubeで無料公開されたこのライブは、最大同接1万7000人以上を集め、Twitterハッシュタグでもトレンド1位を獲得するなど大成功を納めました。

このライブ以降、刀ピークリスマスソングだけでなくピーナッツくんのオリジナル楽曲MVの再生回数も伸び始めます。

Vtuberとしてだけでなく、アーティストとしてのファンも増えたことがわかるでしょう。

ピーナッツくんの快進撃はまだ続きます。

5月8日には「グミ超うめぇ」 のMVがオリジナル楽曲として初めて100万再生を突破しました。

5月21日には幕張メッセで行われた日本最大級のHIPHOPフェス「POPYOURS」に出演。

その影響でSpotifyの国内バイラルチャート5位に「グミ超うめぇ」がランクインするなど、ピーナッツくんの楽曲が本格的に評価され始めたのです。

今月初めには3rdアルバム「Walk Through the Stars」もリリースされました。

アルバムの感想記事はこちら▼

ピーナッツくんの3rdアルバム「Walk Through The Stars」#ウォクスタ を聴いた感想 - 頭の中の小さな引き出し

▲Walk Through The Starsはダウンロードチャートで週間4位にランクインしました。

一連の流れを見ると、

①刀ピークリスマスによって新規視聴者を獲得

②XRライブによって新規視聴者を音楽に惹き付ける

③MVの再生数やアーティストとしての評価が上がる

④大舞台でさらに実績を残す

というように、刀ピークリスマス2021を起点にして大きな波が出来ていることがわかります。

もちろん、XRライブやアルバムなどはクリスマス以前から企画されていたはずです。

様々な要因が重なった「偶然のイタズラ」だったわけですが、結果的に好循環が発生しているのです。

刀ピークリスマスのテーマソング2021のMVは動画時間が3分未満と短く、それでいてメロディや歌詞には中毒性があるので「ピーナッツくん入門編」として非常に有効です。

中毒性のある動画や音楽を「電子ドラッグ」と形容することがありますが、刀ピークリスマスのテーマソング2021はいわばゲートウェイドラッグ」なのです。

実際に

「友達から教えてもらったけどハマって抜け出せない、助けて」

という声を非常に多く見ることができます。(警察の啓発ポスターかな?)

「刀ピーでピーナッツくん知ったけど、普通に良い曲作るじゃん」

という感想も見られます。

このように、ピーナッツくんの活動において「刀ピークリスマスのテーマソング2021」はひとつのターニングポイントとも言える作品でした。

無料ライブ「ONAKAnoNAKA」でこの曲をセットリストに含めたのは、ピーナッツくん本人がそれをよく理解していたからでしょう。

しかし。

強い薬には必ず副作用が存在するように、刀ピークリスマスソングにも一定の副作用が存在します。

この副見出しを「功罪」としたのはそのためです。

まず第1に、

「刀ピークリスマスソングは知っているけどピーナッツくんの他のコンテンツは見た事がない」

「ピーナッツくんを浅く知っている」

という視聴者層が増えたことです。

これは一見良い事のように思えます。

しかし、こういう人の中では「ピーナッツくんは刀ピーの人」というイメージで固定されてしまい、彼のショートアニメやぽんぽこちゃんねるでの活動までは食指が伸びにくくなる可能性があります。

「ピーナッツくん?あぁ、刀ピーの人ね(笑)」

頼む!もう一歩踏み込んでくれ!

尤も、これは今後の伸び代としてポジティブに捉えることもできます。

第2に、

「ピーナッツくんの音楽活動の代表作が刀ピークリスマスソングだと思われてしまう」

という点が挙げられます。

確かに刀ピークリスマスソングは素晴らしい曲ですし、私も今でも週に何度か聞き返すほど大好きです。

しかし、ピーナッツくん本人が「あの曲の歌詞は1時間で考えた」と語るように、彼にとってあの曲はあくまでラフな気持ちで、剣持くん個人に向けて作った曲なのです。

壮大な身内ネタとも言えます。

つまり「刀ピークリスマスソング」は"Vtuberとしてのピーナッツくんの作品"なのです。

アーティストとしてのピーナッツくんには、他に評価されるべき曲がまだまだ存在します。

MCバトルで有名なラッパー「晋平太」氏がピーナッツくんの曲のリアクションをするという動画が存在します。

この動画内でスタッフさんが刀ピークリスマスソングを晋平太氏に聞かせているのを見て、私は嬉しさもあった半面、なんとも言えない気持ちになっていました。

(本職の人に聞いてもらうのなら、他にも良い曲があるんだけどな…)

(スタッフさん!『笑うピーナッツくん』もお願いします!)

そのような意味では、「グミ超うめぇ」がミリオンを突破したのは個人的に非常に嬉しい出来事でした。

とてもキャッチーな曲で代表作に挙げるにはピッタリですし、数字としての箔もつくからです。

全体的に景気の良いぽこピー

最後に少しマイナスな点を挙げてしまいましたが、刀ピークリスマスソング2021が伸びていることはファンとして素直に嬉しいです。

このペースであれば夢の1000万再生も可能かもしれません。

また、次なる刀ピークリスマスソングへの期待も高まります。

グミ超うめえの100万再生に加えて、ぽんぽこ24vol.6のアーカイブも相次いで100万再生を超えるなど、最近のぽこピーを取り巻くニュースは景気の良いものが多いです。

刀ピークリスマス2021からおよそ1ヶ月後、youtuberの「みの」さんは、自身が投稿した動画の中でピーナッツくんのことを「発見待ち」と表現されていました。

まさに今のピーナッツくんは「発見されかけている」状態と言えるでしょう。

7月からはピーナッツくんのワンマンライブツアーも開始します。

▲渋谷マルイでポップアップストアもOPENするようです。

2022年が、ぽんぽこさんにとっても、そしてピーナッツくんにとっても、さらなる飛躍の年となるのは間違いないでしょう。