頭の中の小さな引き出し

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ピーナッツくんの3rdアルバム「Walk Through The Stars」#ウォクスタ を聴いた感想

2022年6月1日、Vtuber/ラッパーとして活躍するピーナッツくんの待望の3rdアルバム「Walk Through The Stars」が発売されました。

この記事では、私がこのアルバムを聴いた感想や考察、妄想を書いていきたいと思います。

(筆者の妄想が激しいのでご注意ください。)

アルバム全体が一つの作品に

1stアルバム「False Memory Syndrome」や2ndアルバム「Tele倶楽部」でもそうでしたが、ピーナッツくんのアルバムはただ曲の寄せ集めではなく、全体を通して一連のストーリーが語られる構成になっているように感じられます。

今作「Walk Through The Stars」も同じで、過去作含めた3作の中でも特にその傾向が強い印象を受けました。

私は実の所、ヒップホップ含め音楽にはあまり詳しくありません。

しかし、音楽を聴くことと、曲の歌詞からあれこれ考えるのは大好きです。

アルバムの収録順や全体のテーマを踏まえて歌詞を読んでいくと、ピーナッツくんの考えている事が透けて見えてくるようで、なかなか楽しいです(キモ・オタク)。

以下にそれぞれの曲から見えてくるストーリーを書いていきたいと思います。

1.Roomrunner

ピーナッツくんは「ぽんぽこちゃんねる」で投稿された動画の中で、罰ゲームとして1日6000歩をウォーキングしなければならないというノルマを課されてしまっています。

屋外を歩くだけでは大変なので、室内でもノルマをクリアできるようにルームランナーを購入しました。

この曲のタイトルはそれに由来していると考えられます。

歌詞には

「Wake up in the morning」

「On a treadmill I do ride that まるで魔法のカーペット 原動力は僕の足なんです」

という箇所があり、朝に目覚めたピーナッツくんがルームランナーでランニングをこなしているという日常風景が浮かんできます。

「仮想的なスピードラン」という意味で「エアライダー(カービィのエアライド)」と「シティトライアル(エアライドの中のゲームモード)」というゲームに由来する単語が引用されています。

こちらはバイク用語とのダブルミーニングになっており、言葉遊びも面白い1曲です。

2.Fulltracker

ピーナッツくんのVtuberとしての活動内容の一端が垣間見える曲です。

フルトラッキング、つまり3Dモデルを使った動画を撮影する時の様子が歌われており、

GANTZに呼ばれたみたいなmybody」

という歌詞が面白いです。

画像検索してみるとわかりますが、モーションキャプチャーに使われるトラッキングスーツとGANTZスーツはそっくりなのです。

「6点つけて動くVIVE

東京Studio行って動くVICON

OculusならQuest2 & Go

valve index めっちゃハイコスト」

など、撮影用機材の名前がたくさん出てきます。

3.Makeup

筆者お気に入りの曲。

ピーナッツくんが自分の姿をさらに「オシャレ」にするためにメークアップ=装い飾ろうとしている曲です。

他の方の感想でなるほどと思ったのは、

「鏡の中に映った ぼくをまとめて Make up!」

という歌詞は「兄ぽこの視点で画面に映るピーナッツくんを見たもの」である、という考察です。

ピーナッツくんには2D・3Dを含め多くのモデルがありますから、それらをよりオシャレに磨いていこう、というピーナッツくんのご主人様=兄ぽこの意欲が感じられるような気がします。

「Made in さえき それにheart in

これぞまさに これぞまさにって」

という歌詞からは、現在使用している3Dモデルの製作者である「さえきやひろ」さんとモデルへの並々ならぬ想いが感じられます。

4.KidsRoomMen

タイトルそのままズバリ、「子供部屋おじさん(所謂"こどおじ")」の曲。

ピーナッツくんは自分のホームは原宿だと言い張っているので、この歌は現在も滋賀の実家に住みながら活動する「兄ぽこ」の視点が多く含まれていると推測できます。

「おもちゃ箱みたいな居場所 たまには外に出なきゃだろ」

「まだ振り出しにいる ゴールはここにある」

という歌詞からは、現状に対する複雑な葛藤が滲み出ています。

しかし、最後の

「この大きくなった影を 包み込む私だけの KidsRoom yey

あの子じゃできないこと やってのけるのさ」

という部分からは、自分はまだまだ滋賀をレペゼントしながら活動していくぞという意気込みも感じられます。

ちなみに筆者も田舎住みのこどおじです。

5.KFC

タイトルを見た時にケンタッキーフライドチキンかな?と思っていたら、本当にケンタッキーフライドチキンの曲でした。

聴いていると「平和堂(滋賀県を中心に展開しているスーパーマーケット)のフードコートでケンタッキーをうめ…うめ…と1人で貪るピーナッツくん」の姿が浮かんできて、笑いを禁じ得ません。

グミの美味しさをひたすら語る「グミ超うめぇ」と対を成すような楽曲となっています。

6.PEEPEE

恐ろしげな読経のサンプリングから始まる本アルバム屈指の「怖い曲」。

タイトルは「ペーペー=素人、技量や経験の劣るもの」に由来していると思われます。

曲中では周囲のレベルの高さやミスマッチ感に引け目と劣等感を感じるピーナッツくんの姿が描かれています。

経験を積み、最近では様々な大舞台に呼ばれることも増えたピーナッツくんですが、その分悩むことも増えたのでしょうか。

「頭の良い人たちいる周り

専門用語なに?知らん また喋ってる」

とあるので、イントロのお経は「素人の自分には難しい専門用語が念仏の様に聞こえる」という意味が込められているのかもしれません。

7.TotaKK

今アルバムの中で個人的に一番難解に感じた曲です。

タイトルはゲーム「どうぶつの森」シリーズに出てくる歌手のキャラクター、「とたけけ」に由来すると思われます。

彼は基本的に夜中に歌を歌うので、自室で楽曲制作を行うピーナッツくん/兄ぽこの曲だと私は解釈しました。

8.Tamiflu(feat.チャンチョ)

今アルバム唯一のフィーチャリング楽曲。

熱に浮かされたチャンチョが彼独特のトーンでしっとり歌いあげます。

熱がある時に見る夢のようなMVも印象的でしたが、アルバムの中で他の曲と通して聴くと「TotaKK」で深夜に楽曲制作をしたピーナッツくん/兄ぽこが根を詰めすぎてしまい、夜中に熱を出してしまったor体調を崩した、というストーリーが見えてくる気がします。

非常に情景的な曲です。

9.respawn

ピーナッツくん/兄ぽこの現在のVtuberシーンへの想いが伝わってくるような楽曲。

「適当なラクガキから ビックリするようなコンビ

僕らロックマンエグゼのように 走って飛び込んだよ till morning」

という歌詞は、ぽんぽことピーナッツくんの「ぽこピー」コンビのことを指しているのでしょう。

morningはVtuberにとっての朝の時代、2018年頃のことを言っているのかもしれません。

この曲は歌詞の一つ一つが重く、現在に至るまでの4年あまりの間にピーナッツくん/兄ぽこが経験してきた様々な思い出が込められているように感じます。

「僕らは行き詰った 想像の中でほぞを噛んだ

もう少し ここに居座るよ まだ

よくわかんない」

という部分は、活動の中で日々感じる葛藤や悩みが伝わってくるようでいたたまれません。

初めこの曲を聴いた時、「ピーナッツくんは活動をまとめに入っているのか?」と少し不安な気持ちになったものです。

しかし、Tamifluと続けて聴くと「夜中に薬を飲んで熱が下がり、ベッドの中でぼんやり物思いにふけるピーナッツくん/兄ぽこ」の姿が脳裏に浮かんできて、勝手に納得してしまいました。

9.Youngpixar

Pixar」とは、元々スペイン語「to make pictures」という意味がある言葉です。

ディズニーに属するピクサーアニメーションスタジオの名前の由来にもなっています。

曲中では、創作活動で悩む兄ぽこの姿を垣間見ることができます。

「まだガレージバンドの中」という歌詞がありますが、ガレージバンドは初心者向けの音楽制作アプリのことです。

昔挑戦した作りかけの曲が、兄ぽこのMacの中にはまだ眠っているのでしょうか?

そしてまたもや

「寝れないやこんな日は」

という歌詞が。

大丈夫?不眠症になってない?

11.Petbottlerocket

今アルバム屈指のキラーチューン。

ここまで数曲続いていた落ち着いたトーン、悪く言えば鬱々とした雰囲気を一気に吹き飛ばす爽快感が素晴らしく、非常にかっこいい曲です。

「LANケーブルが壁を破っては 仮想現実感 over」

この部分とかもう劇場版アニメの主題歌でしょ…。

「KidsRoomより

もっと広い世界を見据えて動いてんだ

ここはopenworld」

という歌詞からは、さらに活躍の場を広げたいという強い意志が見えます。

「かたや現実感を残して 机の中にしまうbadday」

と歌っているように、日々の悩みが完全に吹っ切れている訳では無いでしょう。

しかし、

「ここはopenworld

眺めているよ目下

行きあたるはずさどっか」

と歌うピーナッツくんからは、停滞の雰囲気は少しも感じられません。

12.Walk through the stars

アルバムの表題曲。

月まで届くロケットのような勢いだった前曲からは少し落ち着き、ピーナッツくん/兄ぽこの現在地、リアルな今の心境が歌われます。

「知り合いとかマジいらない

僕にはマジいらない

友達を作りたいよ ほんとのこと話したいよ」

という心からの叫びが哀愁を感じさせます。

ペットボトルロケットに乗って宇宙へ飛び出し、星々の中を進んで行くピーナッツくん、そして兄ぽこ。

キラキラと輝く星は一体何を意味しているのでしょうか。

友達?

それとも「きみ」でしょうか?

答えはハッキリとはわかりませんが、悩みながらも進み続ける若者の等身大の想いが胸を打ちます。

13.DR_0000_0212.wav

兄ぽこのボイスメモ。

兄ぽこファンへのボーナストラック…というより、アルバム制作をしていく中で生まれたリアルな"素材"なのでしょう。

ウォーキング中なのか、何度か深い息をつく兄ぽこ。

疲れを見せながらも、彼の足を進める音は止まることがありません。

今後のさらなる飛躍を期待させてくれるトラックです。

▼他の方の記事ですが、ボイスメモについて興味深い考察をされています。こちらもぜひ。

総評

今作が「False Memory Syndrome」や「Tele倶楽部」と明らかに違うのは、ピーナッツくんと兄ぽこの境界が薄れているような曲が多いということです。

ピーナッツくんと兄ぽこが融合しつつあるという考え方も出来ます。

私が思うに、これまでのピーナッツくんがいなくなってしまったのではなく、兄ぽことより深く結びついた新しいピーナッツくんが生まれる(respawnする)過程にあるのかもしれません。

アルバム全体のストーリーの流れとしては、Roomrunner~KFCではピーナッツくんの日常が描かれ、PEEPEE以降は兄ぽこの心象風景が少しずつ前に出てきます。

respawn~Youngpixarで語られるクリエイター/アーティストとしての悩みを経て、Petbottlerocketで前向きな想いが高く「打ち上げられ」るのです。

また、Roomrunnerの「朝」から昼間の日常が過ぎて次第に夜になっていき、アルバム終盤にかけてまた朝が来る、というような時間の流れを感じることもできます。

内面の悩みや葛藤を吐露するような曲が多く、ピーナッツくん/兄ぽこの存在がよりリアルに浮き出てくるような印象を受けます。

ピーナッツくんが「False Memory Syndrome」と「Tele倶楽部」で示した「存在証明」や「尖り」とは少し毛色が違います。

心の内側の素の部分が見えるという点では、一種の歩み寄りにも似たものを感じさせるアルバムです。

しかし、その「歩み寄りに見えるもの」は決してこちら側への譲歩ではなく、アーティストとして成長していく中で自然と足が向いた道にほかなりません。

アルバムを出す度に進化し、今作でまた1段階進んだ感のあるピーナッツくん。

次はどんな輝きを私たちに見せてくれるのでしょうか。

追記:Walk Through The Starsがビルボードチャートウィークリー4位にランクインしていたようです。